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不偏不党

 週間新潮での記事を焼き鳥屋のカウンター奥で眺める。一面トップはやはり例の事件、加藤を捕まえた警官の表彰が表だって行われないのは同僚が負傷したことや遺族への配慮とのこと。被害者のなかに老齢の男性、宿命かと言わんばかりの息子の救急病棟へ。医者息子が必死の治療を施すも間もなく他界。
 無念はあちらこちらで渦まいている。人災、天災、病魔、あるいは不変の人生そのものが。
 地震で目が覚める。被災地への電話は混雑が予想される救命通報の妨げになるので自粛し、余震がおさまった頃に連絡を取る。無事とのこと。
 運について考える。母は己を天性の魔女と思い込んでいる。義理の5兄弟のなかで唯一生き残っている自分を、他の兄弟の生命を吸い取るようにして生きている気がするという。乳癌に侵され胸を取りシリコンを拒否した。抗がん剤を飲めば髪は抜け、情緒不安定になり、毎日嘔吐して体重は15kg痩せた。投薬治療をやめ、ホスピス然の生活を自ら選び今も健在だが、いつ返るかわからない爆弾を抱え込んでいる。彼女の家計は皆、長寿ではなく癌で死んだ。遺伝だろう。
 育ててくれた養父母の家を飛び出し、父と駆け落ちした日、母は異様な腹痛に見舞われて空港で倒れた。尋常ではない青白い顔をした母に不安を覚えた父は飛行機の搭乗を諦め、その日はホテルに戻った。飛行機の墜落事故の報道があったのは母の腹痛が治まりつつあるときだった。誰がなんのためにもたらした腹痛だったのか、母は今、悪魔の報せと自負している。私は悪運に包まれているけれど、悪運の中であなたは生まれたのよと。「魔が差したのよ、あの人についていってしまったのは。いまさら仮定もくそもないわ」
 私を連れて彼女の土地へ戻ると、彼女の兄弟は時期がきたかとばかりに次々に死んだ。肝臓癌、胃癌、膵臓癌。危篤状態を知らされ病院から急いで自宅へと搬送すると部屋に着くと同時に息を引き取った。遺体がリビングで横たわるなか親戚一同が寄り合いし、業者の泣き子が昼間に喚きちらすなか遺族は感慨もなく世間話をし、祝いの席と錯覚するような宴会を夜通し騒ぎたてて疲れ果て、翌日焼き場の煙突に流れる白い煙を見上げて、焼き場の人気のない裏手に回り恐怖を覚え、職人が無遠慮に掻きだし出てきた頭蓋骨のくぼんだ目を見て呪われた気がし、夜に紅包の紙を燃やして天に送り出した。次は、母の番だ。天で使われるといわれる紙幣を燃やしながら思ったのはそういうことだった。次は、母。幼い私の予知めいたものに呼応するように、母は左乳を手で押さえることが多くなった。「しこりがあるみたい」
 なんとなくだが、私も長寿をまっとうすることが出来ない口だと思っている。死を見てきたからといって死が間近にあるとは思えないし、今、ここで、目の前で、生死がどういうものかといった物体として存在しない限りそれを感じとることができない。現代人になってしまった。私は現代人に。そういう体質なのかもしれない、死への恐怖こそあれど、実感がないのは、五感をのぞいた人間が持ちうる感覚のなにかがすでに死んでいるのかもしれない。きっと病魔なのだろう。天災や事故からは、母の悪運の強さに似通った何者かによって難を逃れている。
 そう考え出すと、行きつくことなんて全て、人生とはなんて短く儚いのだろうということに尽きる。いつ親族が死に、恋人が死に、友人が死に、自分が死ぬかわからないし、なんら不思議でもない。人がしらないところで、まるで淘汰されるかのように。
 マンションの排気管点検で業者がきた。クーラー室外機のしたに、ハトの卵が二個発見された。どうりで餌の気配も何もありはしないベランダに遊びにくると思った。可哀想だが処分をしないといけないと言われたが、迷った挙句、こちらで対処しますと伝えた。夜になっても放置したままだ。
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