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ねじれ

 映像時代と言われる。ところがじつは皆、四六時中文章に接している。広告、メール、ニュースのテロップ。テレビにも字幕は入る。漫画もテレビも文章を読んでいる。「活字離れ」ではなくて、じつは活字まみれなのだ。そんな中では書くことにも器用になる。大学でもカルチャーセンターでも創作コースに人が集まる。書きたい人が世に満ちる。しかしそこには落とし穴が。「小説」ジャンルの習慣になじんで易々と書けてしまうことが決して”上達”や”達成”とは限らない……。

 1980年代の作家、具体的にいえば村上春樹氏と高橋源一郎氏によって、日本文学は戦後文学の出現以来の大きな変動を経験した。というのも彼らは、「小説」を書こうとしたのではなく、「文章」を書きたいの願ったのだ。
 村上氏のデビュー作『風の歌を聴け』の冒頭には、「僕」が二十代の「八年間」、書くことへのジレンマに絶望しつづけた経験が打ち明けられている。そして同じ期間に高橋氏は、東京拘置所で「失語症」に苦しみ続けたことがエッセイ「失語症患者のリハビリテーション」には書かれている。先行世代が築き上げた「小説」を始めとする表現のスタイルを、彼らは自動的に継承することができず、表現への不信感に取り憑かれていたのだ。そこから出発するために、彼らはたんに作家を目指して書くのではなく、むしろ決して「ただの小説」に陥らない「文章」を創造するよりなかったのだ。

 現代文学の大きなアイロニーという。いわゆる文章を書くのが得意で小説もすらすら書ける者よりも、むしろ自動的に書けることに躓くこと、それゆえに文章を難産せずにいられない者にかえって可能性が開かれているという奇妙なねじれが生じたのだ。

 どうしてそんなねじれが必要なのか。それは現代の私たちが、そもそも言葉のねじれの中で生きているからに他ならない。学校や肉親、職場や世間の言葉と、自分とのあいだにいわば潜在的な「失語」を抱えて生きているからなのだ。我々は小説家になる必然性はないが、「自分」の言葉を防衛的に編み出す必然性にはたえず迫られているのである。それも模範的に饒舌に語れば語るほどウソ臭くという、危うい均衡のなかで……
 ジャンルを忘れ「文章」を創造するほうが、可能性がおおきい。その可能性とは他でもない、言葉のねじれの中で生きていく「自分」を、自分の言葉で作る可能性であり、「小説家」になる術以上に、「自分づくりの文章術」が必要なのだ。

 人がいつから”無難”を覚えたか知らないが、すべては防衛本能からきているという。調和や平和を望む者も、利己や差別を運ぶ者も、古来の言葉譲りで世を渡っている。オリジナリティやアイデンティティという言葉が身近になったかとおもえば、すでにこれらは使い古されており”胡散臭い”部類に成り果ててしまった。結局は、人間一人ひとりが違うのだという謳い文句に賛同していた人々が、これらの胡散臭さを感じ取ってしまったのは、新しい言葉という仮面をかぶった言葉譲りの性質を持っていることに気づいたからなのだ。では、どうすれば表現できるのか。私たちは知らない。”知らない”ということが、”誰かが言わない”ので”真似できない”という流れが人々に巣くっている。そこには、薇仕掛けの人形と生身の人間との違いはさほどありはしないのだ。

 人はいつ、本当のことが言えるのだろう。自分を納得させることができる言葉を、感覚では掴んでいるが、表にうまく表現できないのが人間である。一番わかってもらいたい相手は、実は自分自身なのだ。自分という人間を味方にするための手っ取り早い方法が他人との共有であり、そこから掬いとられるものを”自分”に吸収させていく。他人との共有を期待していくなかで、いつからか人々は公共の場で無難を覚えてしまった。

 どこから拾ってきたのかわからないような倫理や理屈で無難さを装っても、真夜中の悪夢のあとに待つ感覚は自分に対してだけは何一つ誤魔化さない。マスメディアの時勢に、胸を抉るものは共感でもなく納得でもない。それこそ、己の気付かなかった自分自身の投影、表に出せなかったものを先取りされた恐怖だ。人々は気付かぬうちに危機感を覚えている。自分が何を生んできたのか。混雑した電車の中で携帯電話を弄る着せ替え人形たちの顔に張り付いた虚構は、何かを望み、何かを待っている。人身事故が起きて身じろぎ一つ見られない情景に、驚く人は一人もいない。流れと模範が行き着く果てと思う。模範はきれいさを盾にし、”常識”や”当たり前”という言葉を生んだ。常識に淘汰された私の大事な人は、この景色をどう見ているだろう。
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