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ジーマ

 トマト君順調に成長中、連続した悪天候に何度も茎をへし折られたが、なかなか骨太になってきたので今ではそうそうたじろがない。
 六本木は相変わらず日本語が堪能な外人たちでにぎわう。かつての職場の土地と思いきや、既になつかしさは消えうせ肌で感じるのはいささかの煩わしさだけだ。皮肉にも飲む場所はリチャードマン&サン、スタッフの面子は変わっていて私の顔を覚えている者はいなかったが、ホールもキッチンもバーテンもかわらず無国籍な外国人でひしめきあっていた。二十年前からあるこの店はかつてのイミグレーションを迎え入れはじめたアメリカの老舗バーを連想させる。はりつけられた色んな国旗が天井で吹き抜けの風に靡いている様子は以前と変わりない。
 ハワイ大学中で出会ったビーグル犬を日本につれて帰り十五年の歳月恋人ができずに四十才手前でやさぐれはじめた雇われ店長と、見た目よりもずっと若く性格も人当たりのよい一体何が良くなくてそうなったのかわからない持ち上げ上手なバツイチ派遣OLと、バイト先で出会った未成年と謎な意気投合らしき理由で同棲中の秋田から単身上京してきた見た目だけは爽やかなロリコン男と飲んだ。
 メニュウの中身はかわらず、シャーマンポテトのチーズメイプルが美味しいという記憶があるので、これがおいしそうだと必死に薦める。シャンディガフ、ジーマ、ギムレット、ジーマ、ジーマ、ジーマ。すでに思考が落ち始め、二件目にして酒が飲みたいわけでもなく、アルコールを求めているわけでもなく、ひたすらにメニュウを開き酒を選ぶことが全員とも面倒になっている。プラズマテレビでやっているスポーツ番組を肘をつきながら眺め、となりで帰国子女風のパーティー席が意味不明な騒ぎを駆り立てシャンパンの蓋がロリコン男の頭上に舞い落ちる。爆笑とソーリーという言葉の雨が喝采のごとき左手から降り始め、何がなつかしいのかネジが飛んだ店長がグラスを持ってチアーと笑顔を振り撒きはじめたが、もともとそんなキャラの集まりではないのですぐに疲れ始める。ため息と鼻笑いが結局のところ一番落ち着くムードになる。
 バツイチが恋愛や異性との会話の間について語り出す。「私こう見えても気ぃ遣ってるのよ」「みんな癒し系だよね」「一見怖そうで、実は優しいって人なんかいいよね」句読点の合間を狙うように、どこかの席から笑い声が飛んでくる。沈黙が怖いと言うOLにやさぐれ店長が無理をして会話を捜す必要はないと言う。そう感じさせる相手とは長く続かないと軽い調子で続ける店長に、OLが神妙に頷くその様子はかつての離婚を連想させる気配があったが、酒の酔いがお節介な遠慮をなぎ払い空気は重くはならない。ロリコンが若干の千鳥足で席を立ちトイレに行き、二人の話題がこちらにとってかわる。「ノンケなんですか?」振り向きざま、今どこの連中と席を共にしているのかを忘れかけたが、なけなしの理性で「はあ、別にどっちでも」と適当に答える。「そーなんですかあ」気のない返事に「そーですけど」と気のない相槌を返す。「ですよね」とはにかみ笑いを漏らされ、「なにがですよねですか」とため息を漏らす。
 店を出ると霧雨が横に降り、傘の意味があまりなかった。新しいデニムと靴が水を吸収して変色する。地下鉄でSUICAを改札に通し、充電し忘れてバッテリーが赤いipodをつけ、携帯を開く。若いツバメのメールを読み心を和ませ返信し、そういえばと翌週の兄との約束を思い出す。遅めだが母の日のプレゼントとして東京芸術劇場で京劇を見に行くから付き合えとのこと。はっきり言って、何を勘違いしているのか分からないが中国の歌劇に母は全くといって興味はない。猿化粧をして曲刀を振り回すダンスを延々と見続けて一人A席7500円は微妙。親孝行の意を汲んで付き合う母も、なあなあで付き合う自分も、それについてくる友人も、兄のパートナーも、何かしら滑稽な部分があるがだれも口にしない。雀卓で麻雀自体はどうでもよく、会話の席を設けたいだけという例と似ているが、そもそも会話自体うまく成り立たない言うなればカルチャーギャップにほとほと頭をもたげさせる。アメリカナイズな兄とアメリカンなパートナーと無口な私と友人と台湾人の母。二度口にするのはくどいが、はっきり言って面倒である。池袋の会館まで出るのであれば、パイプオルガンを聴きに行ったほうがずっとマシだ。むしろ最近リニューアルした地元のプラネタリウムに足を運びたいくらいだ。だがしかし、同じ屋根の下としない生活を強いられた彼にとっては、今が動きたい時期なのだろう。私と彼の人生観や価値観や性格はまったく重ならないし折り合うことはないが、耳を傾け同意することに苦はない。
 テラスの紫蘇とゴーヤとトマトに水をやり忘れたと思い出し焦ったが、地元についてから雨が降っていることに気付く。飲み足りているはずなのに、駅前のコンビニで缶チューハイを買って帰りながら飲み下す。そういえば、彼の誕生日も今月だった。面倒な話である。

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