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ミミンズクの夢

 結核を患う母を持つ娘たち、サツキとメイ。空気の澄む埼玉は所沢市、時代は高度経済成長を迎える前の、緑豊かな田舎町に草壁一家は引っ越してきた。テレビはもちろん普及しておらず、ガスもないので七輪で料理をし、水は井戸から運び洗濯をした。姉妹が目にした新しい家は、おとうさんが子どもの頃から夢みたお化け屋敷だった。家を支える柱に手をあててみればギシギシと揺れて今にも崩れそうだし、屋根裏ではマックロクロスケと愛称のつくススワタリと出くわすし、夜のおもてで風呂焚きの薪をかつぎに行ったサツキが目にしたのは深い森の轟だった。

 近所づきあいは良好、姉サツキは転校初日に友達もでき、妹メイは母が入院する七国山の近くに越したことに喜んでいる様子。おとうさんは大学で非常勤として働き、足りない生活費は翻訳の仕事でまかなっていた。当時、結核という病は今の時代で言う癌に相当する重い病気で、治療費はばかにならず、助かる見込みも絶望的だった。幸いにしてかん快に向かっているとはいえ、万が一にも愛する妻を失うかもしれないという恐怖にもたじろかず、おとうさんは娘たちを不安にさせないようにと、いつでもおどけた笑顔で彼女らを支えていた。
 引っ越しを済ませてからすぐに、母が入院している病院へ、三人は自転車にまたがってすずなりになって向かった。退院を前向きに考え、普段の生活に馴染ませるために一時的に一緒に暮らせる許可が下りたことにメイは大喜び。

 母が入院してからというものの、メイは幼いながらも自分なりに楽しい遊びを自然の中で見つけようと精を出す。ある日メイは、自宅の庭先で小さなおばけを発見してしまう。そのリスでもないサルでもない半透明の白い生き物と鬼ごっこをしているうちに、メイはついにおばけの住処を発見してしまう。太古より塚森の主として自然を守っている生き物、子どもだけが見ることができるというミミンズク、トトロとの出会いだった。
 メイはトトロとの出会いに心を弾ませ、五歳としては当たり前の、母に甘えたいという気持ちを紛らわせるように、トトロの大きなおなかの上で眠りに落ちてしまう。目が覚めたとき、そばにいたのは姉のサツキであり、からだの下にあるのはやわらかいトトロのおなかではなく固い土の上だった。トトロに出会ったことを信じてくれないおとうさんや姉サツキに腹を立てかんしゃくを起こすが、おとうさんは彼女をぞんざいに扱うことはしない。「サツキやおとうさんはメイのことを信じてないんじゃないよ、きっとメイは森の主に会ったんだ。それはとても運がいいことなんだよ」

 妹メイの世話を忘れずに、学業も怠らず、家事を手伝う姉サツキ。お弁当のことをうっかり忘れてしまう台所事情に疎い父を支えるのは、母の代理だと自負している姉サツキだった。礼節をわきまえ、クラスメイトから借りた傘はちゃんと家にまで行って返し、雨が降れば父を迎えに行き、同行したいとわがままを訴える妹の手も握ってやった。そんな一人前の大人の女性として振舞うサツキにも、不思議なできごとが訪れる。暗い夜道にたたずむバス停で父を帰りを待つ間、眠りに落ちたメイを背負いながら、ついにサツキもトトロに出会ってしまう。畦道のような道路沿いで、夜の雨がしとしとと降る中、すぐ隣で理解不能な生き物がその長い爪でポリポリと毛だらけの体を掻いている。
 傘で隠れ隠れゆっくりと隣の顔を覗き見上げると、雨避けのつもりなのか大きな葉っぱを頭に乗せた、クマのような、しかしクマではない何ものかが直立不動で前を向いている。突然の衝撃的な出会いにサツキははじめ戸惑うけれど、それでもサツキはメイの言葉を思い出し、トトロに興味を覚えおとうさんの傘を差し出した。トトロは大いに喜びはしゃぎ出すと、メイは目を覚まし、やがてバスのライトが近づいてきた。今度こそおとうさんが乗っているバスだと期待するが、なぜかバスは不毛に飛び跳ね、猛スピードで近づいてきたかと思えば急ブレーキで止まる。猫の顔をしたバスか、それとも猫型のバスなのかと、口をあんぐりと開けて呆然としている姉妹に、トトロはあるものを差し出した。龍のひげで包んだたくさんの種だった。

 翌日その種を植え、サツキは母に近況の手紙を書いた。姉妹はある日、トトロたちが出てくる夢をそろって見、その夢を見た翌日に種は芽を出した。願えば確実にいつか芽を出してくれる。トトロは私たちにその夢をくれた。「夢だけど、夢じゃなかった」その出来事は、サツキとメイにとって大きな心の支えとなる。母の病だって、いつかきっと治る。それは夢じゃないんだ。
 新しい生活に慣れはじめ、おばあちゃんの畑仕事に付き合うサツキとメイは大自然から生まれた生野菜をご馳走になる。おてんとうさまの光をたっぷりと浴びた野菜を食べればどんな病気もいちころだ、そう語るおばあちゃんの言葉にメイはますます嬉しくなった。
 その頃、木陰で休憩をしていたサツキとメイとおばあちゃんのもとに、雨の日に傘を貸してくれたクラスメイト、カンタがやってきた。家を空けていたときにたまたま病院から電報がきていたのだ。「すみやかに病院に連絡を寄越すように」という内容に、サツキはいいようのない不安を覚える。おかあさんにきっと何かあったのだ。メイは姉の様子にいぶかしむが理解できない。連絡をするにも電話はない、おとうさんは職場だし、どうしたらいいだろうとサツキは混乱する。おばあちゃんがカンタに本家の電話を使わしてやれと案内させ、サツキはメイをおばあちゃんに任せカンタと走り、メイが後ろからついてくるが沸きおこる焦りから振り返れない。カンタの本家で父に電話で事情を説明すると、折り返しの電話を待つようにと言われその場で正座して待ち続ける。おかあさんの容態が急変し、一時退院は見合わせることとなった。

 カンタの本家から出てきたサツキは、うしろからつけてきたメイを見つける。おかあさんの事情をメイに話すと、メイは激昂し不満をぶちまけた。「いやだ」不安に押しつぶされそうなサツキも、妹を守ってやる姉としての顔を忘れてしまう。「じゃあお母さんが死んじゃってもいいの」「いやだ」「もう知らない」メイはおかあさんがまた帰ってきてくれないことに、姉に叱られたことに、自分の気持ちをうまく言葉にあらわせないもどかしさに、そしてすべてを受け止めてくれるはずの母の不在に、ひどく落胆し泣き出してしまう。どこかで我慢していた姉妹のなけなしの健気さが、とたんに崩れ落ちてしまう瞬間だった。カンタは姉妹の家庭事情に同情し、サツキへの思いを募らせる。
 姉妹を心配するおばあちゃんが毎日訪れてきてくれ、家事を手伝ってくれる。ありがたいことだが、母の一時退院の見合わせは、姉妹にとって思いのほか大きなショックだった。サツキが洗濯を手伝うおばあちゃんにぽつりぽつりと本音を語り出す。「前にも同じことがあったの。あの時も、同じだった」おかあさん死んじゃったらどうしよう、突然泣き出すサツキの背中をさするおばあちゃんが見たものは、気丈に振舞っているだけの本来母親を必要とするはずの小さな女の子だった。いままで一度も見たこともなかった姉サツキが号泣する姿を見てしまったメイは、おばあちゃんの畑で取れたとうもろこしを抱えて、家を飛び出してしまう。

 夕方になってから、塚森は騒然としてしまう。メイが行方不明になったと住民は総出で捜しており、サツキは七国山をにらんで目指したが、ひたすら一本道に続く七国山からやってきたというカップルが、小さな女の子は見ていないと言い、メイはひとり迷子になってしまったのだと悟る。肩を落とすサツキに追い討ちをかけたのは、自転車でサツキを追ってきたカンタの知らせだった。「池でサンダルが見つかった」サツキの背中に戦慄が走る。頭のどこかで考えていた最悪のケースに身の毛がよだつ。おかあさんがあの状態の上、メイまで失ったら私はどうしたらいい。
 来た道を駆け戻ると、桑で池から何かをかきだそうとしている農夫や、事態を見守る近所の人たちが群がっている。おばあちゃんの震える手にはカンタが言っていたサンダルが握られており、池の中からメイが出てこないようにと祈る姿があった。今にも泣き出しそうなおばあちゃんの顔からは、畑で口にしたことについての後悔と自責の念がにじみ出ている。震える手の中にあるサンダルにサツキは息を切らせながら目を落とす。「メイんじゃない」
 でも、だったらあの子はどこにいる? 万策は尽きた。意味もなく空を見上げると、視界の片隅に森の木の葉が移った。それこそ、神頼みだ、サツキは走る。大丈夫よ、あなたなら夢をかなえてくれるでしょう?
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