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千秋万古

 「おまえらしい季節だ」と言われたことがある。興味ぶかいあてつけのような祝い文句にかぶりをふると、「忘れたころに冬ってもんがこの先にあるって脅す感じな。チョー性格ワルそうじゃね」と弁の立つ口で言う。
 ずいぶんな言い草に、眉間に川の字をつくりながら相手を置いてさっさと先を歩く。「褒めてるつもりなんだけど」と悪びれた態度で付け足されてもシカトし、背中にため息が続くのを無視しながらずんずん歩く。

 それがおもしろいことに、今になって、今度は私が冬の気配に気づくのである。改札前の人いきれ、七日目の蝉の鳴き声、祭ちょうちん、それらがいつの間にかなりを潜めどこか遠くへ消えてしまっている。青葉の変色、風の透明さ、行く先を求めるトンボ、早朝の吐息の白、それらが次の季節を予告する。それらの目立たない存在や仕事そのものが私のようだ、と言った言葉に唇を尖らせていた私は、しかし今になってニヤニヤしながら街を見渡しているのである。
 春のような出会いと別れ、始まりと終わりという大局を迎えるにふさわしい季節ではない。夏のようなエネルギッシュに満ちあふれたイベントラッシュもなければ、冬のようなインパクトあるセンチな思い出を作る時間もない。秋は地味なのだ。地味かつ短いのである。


 20年前、ひとつ先の町の小学校へ転校することに決まった私は、近所の友人たちひとりひとりにお別れをした。教科書は転校先でもつかえるかもしれないからと破棄せず、通っていた習字教室の先生や同期の人間に頭を下げ、その頃はやっていたスケートボードを仲のいい友人にあげ、そうこうしているうちに引っ越す日を迎えた。私は彼らに囲まれるようにしてひと通り励まされ、からかわれ、嘆かれ、握手をし、慣れ親しんだ公園を振りかえることもなく車に乗り込んだ。
 見慣れた道を目で追いながら思い出したのは、溜まり場として遊んでいた空き家の庭の古いブランコだった。さびた鉄鎖に手をあてると土の香りがし、ブランコに立ち乗りするとのけぞった際にうしろに見えた柿のオレンジ色が目に焼きついた。みんなして走りジャンプをし、やっとのことで掴みとった柿をまわし食いすると、それはひどく舌にざらつき、かすかに甘みを感じたがとても食べられるものではなくすぐに放り投げた。しかしその柿のまずさの記憶が、枯れ葉を踏む友人の靴を思い出させ、ブランコで話した下品な会話を思い出させ、大怪我をして救急車に運ばれた記憶を思い出させた。芋づるに連鎖する記憶が、すずなりに記憶のなかで舞い踊っているのだ。

 10年前、旅先の沖縄での班やコースを決めている間、正直私はもぬけの殻だった。軍事基地のアメリカ人家族に囲まれながらボーリングをし、ドルで行き届いている出店を見回りTシャツを買いピザを食べ、物珍しげに声をかけてくる軍人を仰ぎ見ながら、しかし私の眸は目の前の光景をなにひとつ見ていなかった。人当たりのいいホームステイ先のママに抱かれ、育ち盛りの兄妹と握手をし、去り際に感じた永遠の別れに胸がざわつき、ひどくイライラした。この予感めいた別れも、秋に似ていると思った。ああ、私だ、と思った。いつか私はこの経験をよいものとして捉えるだろうと確信めいた答えを捻りだしてはいたが、それでもそのときの私は全身全霊でいますぐにでも帰りたかった。一分一秒が惜しかった。やんばるで見慣れない鳥の鳴き声や華厳の滝のような水しぶきに飛び込む生徒を眺めても、声に出して笑ってみせても心ここにあらずだった。
 旅行を辞退することも考えたが、一生の思い出になるものだからと半ば追い払われる形で飛行機に乗り込んだ私は、早く一日が終わることを願いながら、また一日が終わってしまうことに焦りながら、ルームメイトがベッドに沈んだあとベランダからのぞく遠くの黒い海をずっとみていた。
 部活の後輩への土産をホテルや国際通りで適当に見繕い、帰りの飛行機に乗っている間クラスメイトとカードゲームをするのもそこそこに、CDをバッグから取り出して羽田までの時間をやり過ごした。帰り道に頭に落ちた枯れ葉のかさつきは、終秋そのものだった。

 10年後、20年後の自分の姿を予想することはできないが、いつか私のことを、なんだかそれは私のようだと例えるだろう者たちを、疎んだり煙たがったりしない心で引き受けつづけられるのであれば、私はなにものにも怯えたりしないだろう。夏にも冬にもなびかず、脇役の秋として両者をひきたて続けるススキのような草であれば結構なことである。ちょっと遊び心を覚えたなら、春にちょっかいを出してみてもいい。私は自分のことを、謙虚な臆病だと理解している。たとえ誰かからの評価と自意識に齟齬があったとしても、あっデスヨネーと頭を縦にふるのだろう。なんだかすこしマヌケっぽい感じだが、私は存外マヌケなのである。
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