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同列

 散歩といっても夏至が近く、UVAも強いということで日焼け止めを押し付けられる。洗い落とすのが面倒なのであまりつけたくはないのだがしょうがない。色白肌に口答えはできない。日光浴という言葉がなつかしい。
 図書館にいくと時代を感じる。借りていた資料を返却するときはコンピューター画面に指で触れ、受付の窓口でベルトコンベアのように回収される。予約していた本の受け取りは事務の方に世話になるが、基本的には図書カードをコンピューターに差し込んでバーコードを読み取らせる。10冊借りるとしても資料の全てを重ねてピッと判別してくれるものだから、ものの5秒といらないのだ。学生のころにはあったはずの、資料名の記入と印鑑をふいに思い出した。
 夕方の図書館の利用者は学生半分、社会人半分といったところだ。学生優先席、社会人優先席、持ち込みパソコン利用専用席、インターネット専用席、一般資料閲覧専用席、社会人専用書斎室と、席は豊富にあるようで空きは少ない。
 学友と一緒に勉強をしている子もいるが、おしゃべりもせず皆まじめにノートを睨み続けている。異臭を放ちながら読書にふけっている古着男のテーブルのまわりには誰もいない。お腹をふくらました女性が育児の本をめくっている。渋谷にいそうなカップルが新聞をめくりながら突っつきあっている。スーツを着崩した女性が株情報の雑誌を立ち読みしている。私は彼らの合間を縫うようにすり抜けていき、目的の棚に向かうとそこで立ち読みしていた男子高校生が私と入れ替わるように本を棚に返す。失敗した。反対側からくれば気遣わせることもなかったかもしれない、と彼が返しただろう本のタイトルを見て思った。「未成年の殺意」
 目的の資料を数分立ち読みしていると携帯が揺れた。社会人フットボールチームに入らんとする兄からのメールだ。「一緒に空手やろうよう」見なかったことにした。
 本を棚に返し、館内奥のガラス張りの向こうの空を見ると夕日は沈みかけていた。勉強にふけっている面子はほとんど変わらない。館内を出てエスカレーターで下の階に降り、スクールカフェでノートパソコンを開く。左手がガラス張りになっており、映画館につながる階段が見える一番奥の席がお気に入りだが、なかなか空いていることはない。陽射しがまぶしいこともあり、利用するなら夕方以降なのだがこの時間帯だと難しいのだろう。
 作業に区切りをつけエスカレーターで3階まで降りる。フランフランを見、無印良品を見、新しくできたカフェを見、気になるものがないので地下へもぐる。切らしていたオイスターソースと豆腐と牛乳をかごに入れる。特売でいちごが季節外れにも2パック340円で売られていた。しばらく目を落としていたがジャムでも作るかと思い至りいちごを籠に入れる。
 部屋に帰ってさっそくいつか使おうとおもっていた広口びんを熱湯消毒し、自然乾燥させた。いちごを洗いヘタを取り、鍋に入れる。うちでは毎朝パンなのですぐに食いきるから砂糖は少なめだ。普通保存をきかせたい場合、果物の重量の半分が目安とされている。まんべんなく砂糖をまぶしたいちごを2時間くらい放置し、風呂に入り、ベランダの植物に水を与え、ネットサーフィングする。
 いちごは浸透圧で砂糖に引かれてじわっと水がでてくる。水は入れずにそのまま鍋を火にかけて木べらで混ぜながら煮ていくといちごからアクがどんどん出てくるので丁寧にすくっていく。こうして煮ていくといちごから色が抜けて白っぽくなってくるが構わず煮続ける。ちなみにこのすくったアクは色んなデザートなどに化けるらしい。うちでは紅茶にぶちこんでロシアンティーにして飲んでしまう。
 白くなったいちごをさらに煮続けていると、とてもキレイな瞬間が見られる。一度抜けたいちごのエキスがもう一度いちごに戻ってきて粒が透明な深いルビー色になってくる。粒が全てルビー色になってとろりと煮詰まったら火を止めてそのまま熱いうちにビンに詰めてふたをする。あら熱がとれたら冷蔵庫に入れてもいいが、一度使い始めるまでは冷暗所保管でもいい。もちろん薬はつかっていないので、一週間で使い切りたい。

 MSNニュースに美人中国人女性の死刑という吹きだしがあった。以前に気になった記事で調べたことのある女性と同一人物ですこし驚いたが、MSNには核心にふれることは一切書かれていなかった。要はその死刑についての画像や動画が当国で投稿ブームになっており反響を呼んでいるという。国営で公開処刑を生放送している。
 私が調べた限りでは、たしかに俗説にあるように中国での裁判はほとんどが名ばかりで、一度判決が出てしまうと反論の余地はない。上告なんて絵空事であり、判決が下されれば一時間以内に執行される。罪名と名前を書いたプラカードをさげ、街中を国民に後ろ指さされながら歩き、執行前の控え室で断頭飯を食べ、刑場ではけたたましい罰声を浴びさせられながら処される。処刑は十数人単位で同時に行われ、銃を持った軍人が整列し、それを囲むように野次馬の一般人たちが見守っている。私がこの現状で気になった問題は、死刑を執行する現場に子どもを連れてきている母親でも、それほどにまで必要なのかと思われる軍人の数でもなく、刑場でパンをかじっている若者でもなかった。MSNに出ている女性の罪状についてだ。「売春」
 中国での死刑にあたるラインはグレイではなくはっきりしている。殺人、麻薬、売春もその一つなのだが、成人にも満たない彼女のバックグラウンドを図書館で調べてみると衝撃的なことがわかった。貧しい田舎育ちであり、借金生活に身動きがとれなくなった一家に長女である彼女は人身売買されてしまう。その身を投げ打って裏産業である売春を強要され、こっそりとその収入を家にあてていた。結果、オーナーの事業が発覚してしまい検挙された際に彼女は捕まってしまう。自分は望んでこの仕事についたわけじゃないと伝える発言権も与えられず判決は下されてしまい、あれよあれよと縄をかけられた。刑が執行される直前、自分の名前三文字に×印をつけられたプラカードを提げた姿で両親と向き合う。母親が娘の顔を両手で包む。そのとき何を口にしたのだろうか。現在、公開処刑は世界的に非難されて自粛しているが、水面下では行われているというデータがある。この女性が処された年は、ほんの3年前だ。

 日本では足利のDNA冤罪事件が報道されている。国民は「人の人生をめちゃくちゃにして、当時の検察や警察はひどいやつらだ」と思う。しかしそれはメディアに情報が出されてから国民は初めてその事実を知り、感じることである。当時の裁判を傍聴していたら、果たして彼らは同じことが言えただろうか。限られた証拠掲示や弁論で、国民は正しい判決なのだと過信せずに見守れたか。冤罪をかけられ貴重な時間を食いつぶされた彼は口にする。「取調室でひどい目にあった。室内にカメラがあればもう少しがんばれたかもしれない。心が弱かった。暴力に負けてしまった。私がやったと言ってしまった」
 そして最後の言葉に私たちは震撼する。「裁判員制度でも私は確実に、有罪になっていたでしょう」
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