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報道

 ある国をしばらく旅行する。その国のいろんなことがへんだと思ったり、かっこいいと思ったりする。そうして日本へ帰ってくる。異国になじみかけた私は当然、日本のここがすごい、ここがださいとあらためて発見する。こういうのは、人格とおなじ、その国のもつ個性だと思う。
 そう考えると、日本というのはおとなしいようでいて、なかなか強烈な個性の持ち主ではる。これまた以前、滞在先で読んだ2冊になるが、この個性をそれぞれよく忠実に描き出している。
 カナダ人の方が書いた『神は日本を憎んでる』の主人公は、なんとさいたまに住む高校生、ヒロ。全体的にやる気がないように見えるけれど、ないわけじゃなくて、やる気のありようがちょっとへんなだけ。高校卒業後、好きだった女の子を追いかけ、日本人留学生がうようよいるバンクーバーへ向かうのだが、そこで、新興宗教にはまったかつての同級生と再会する。
 たった一つの文章に、からかいと皮肉と諦観と笑いをもりこむ、作者独特の饒舌さは、突拍子なく展開する物語に、不思議な現実味を与えている。ヒロの過ごしている、一見無為で、しかし半端ではなく波乱万丈、そして目的地の見えない日々は、ときおり、この国のキャラクターとだぶる。もちろんこの国がヒロほど回転が速く饒舌だったら、目的地くらいは見える気もするんだけれど。
 『銭湯の女神』は、香港に2年住んでいた著者が、帰国後の東京について、硬派かつ力強い言葉で語るコラム集。ファミレス、スタバ、百円ショップ、ゲーセン、見慣れたそれらを考察する著者の言葉に、はっとさせられたり、疑問を覚えたり、恥じ入ったり、深く納得したり。
 しかし読んでいる途中幾度もこわくなる。著者がくりかえし書く「鈍感」というキーワード、この単語が現状の日本の個性を示すのではないかと思うと、本気でぞっとしてしまう。
 この2冊、まったく別の角度から日本を描いているが、おもしろいことに、小説のラストと最後のコラムの言葉がとてもよく似ている。日本在住経験のあるカナダ人作家と、香港から帰ってきた日本人作家が、日本という強烈なキャラクターに向けて、そのキャラと共生しなければならない私たちに向けて、おんなじような事がらを訴えていることに、私はある危機感と、深刻さと、それからかすかだけれど確固とした希望を感じる。
 長い旅行や旅から帰ってきたあとに、ああコンビニエンスストアがいたるところにあってよかった、とか、ああビールの自動販売機がどこにでもあってよかった、とか、インターネットができてよかった、とか、そんなことしか思えなくなる日がくるのは怖いことだ。そんなことの全然ありがたくない、この国の大勢の人が、ここをその個性ごと見捨ててしまうのは、もっともこわい。突拍子もなくどうでもいいニュースが流れるたび、すでにこわい現場に立たされている気がしてしまう。
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