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尾羽打ち枯らし

 「エドウィン」の由来が江戸勝である、という話を聞いて思い出すのは「キャノン」、「ブリヂストン」、それから「サンリオ」だ。
 「観音さま」である。創業時に製品を完成させた技術者が観音さまを信仰していたことから、出来上がったカメラに商品名として「カンノン」と命名し、後になってそれが「キヤノン」に転化し、さらに後になって商品名をもって社名にした、という歴史があるらしい。
 ブリヂストンタイヤの社名が創業者の苗字に由来している、というのは結構有名な話だろう。石橋を英語に訳し、反転させるとbridge stone、つまり前述の通りになる。
 サンリオは創業者が山梨出身で、「山梨王」をひねって社名をつけた、という話を聞いたことがあるがどうなんだろう。うろ覚えの話なのでどこかに齟齬があれば情報をいただきたい。


 日本の企業はカタカナ社名(あるいは横文字社名)を付けるのが得意だ。いやカタカナや横文字傾向は何も社名に限った話ではない。こと「ネーミング」に関しては、日本の社会はカタカナと横文字がなければお手上げだろう。
 いちばん判りやすい例は雑誌かもしれない。特にグラビアに関していえば、横文字ではない雑誌を見つけることのほうが難しそうだ。今ちょっと考えてみたが、すぐに思いついたのは『装苑』、『すてきな奥さん』、『家庭画報』くらい。想定される読者層がかなり違うであろういくつかの雑誌の名前を挙げれば、『ダ・ヴィンチ』しかり『an・an』しかり『ミセス』しかり『SPA!』しかり『オレンジページ』しかり。
 清涼飲料水もいい例かもしれない。街角の自動販売機で売られているものを思い出してみるが、『生茶』、「午後の紅茶』などのお茶系以外でパッと浮かぶのは、『桃の天然水』くらいか。

 商品の名前だけでなく、飲食店の店名、歌や本のタイトル、バンド名、あちこちにカタカナと横文字があふれている。
 これは余談になるが、trfがデビューしたとき私はかなり長いあいだ、それが「ティーアールエフ」と発音されることをまったく知らずにいた。字面だけはしょっちゅう見ているので、アタマの中だけで勝手にローマ字三文字を読み下し、勝手に読み下したその発音が自分の中ですっかり定着してしまった挙句、「最近よくテレビとか雑誌に出てる『トリュフ』っていうヒトたちいんじゃん」などと真顔でのたまい、友人たちから大笑いされたという苦い記憶がある。

 ところで日本の横文字、カタカナ傾向を嘆く人がいるが、私はそれを特に嘆かわしいことだとは思わない。(ここまで書いておいて、笑)。というか、嘆かわしい嘆かわしくないとかの問題以前に、それは圧倒的な不可抗力性を持つ、「しょーがないこと」だと思っている。
 いや私とて、雑誌や、主に国内向けの商品ならば、無理してまで横文字、カタカナのネーミングにこだわらなくてもいいとは思う。また、安手のTシャツやスエットシャツの胸の部分に、意味不明あるいは読解不能な「なんちゃって英語」や「なんちゃって漢文」が堂々とプリントされている、というようなありがちな現象を目のあたりにすると、トホホな気持ちにはなる。
 しかし国外市場を意識した企業、あるいは商品の場合、横文字が出てくるのは必然といってもいい。

 たとえば『キヤノン』である。その前身となった会社の名を『精機光学工業株式会社』といった。セイキコウガクコウギョウカブシキガイシャ。これを生真面目に英訳するとどういうことになるのか、単純に音をローマ字化した場合、それが「目にしただけで読む気が失せる」種類のモノになることは間違いない。
 日本に進駐軍が駐留していた時代、カメラはアメリカ人の兵隊によく売れた。アメリカの顧客に向かって、セイキコウガクコウギョウカブシキガイシャの名前を憶えろ、と言うのは誰が考えてもイジメである。社名を商品名に合わせてキヤノンとしたのは、英断だったのでないか。精機光学工業がキヤノンへと変身したのには、「なんとなく語感がカッコいいから」などという軟弱なものではなく、顧客に社名を記憶してもらうため、という、とても建設的な理由があったのだ。

 「Bridgestone Tire」がもし「Ishibashi Tire」であったなら、世界の市場に食い込むのは難しかったかもしれない。そりゃ「HONDA」はわかりやすくていいけれど。
 そう考えればSONYが東京通信という社名のままだったら現在のような「世界のSONY」の存在はなかったかもしれないし、松下電器がパナソニックというブランド名を作っていなければ、これも現在のような企業のありようはなかったかもしれない。(ちょっと、だれ、クソニーって言ったの)
 ためらわずに横文字文化を受け入れてなければ、日本の高度経済成長の一部はあり得なかったかもしれないのだ。

 戦時中、行き過ぎのナショナリズムの中で英語は「敵性語」とされ、野球の「セーフ」、「アウト」までが「よし」、「だめ」に言い換えられた、というのはよく知られている話だ。
 戦後に生まれたさまざまな横文字社名やブランド名、ひいては現在まで続く日本人の横文字好きを見ると、その傾向は「敵性語」時代のリバウンドなのではないか、と邪推したりする。だから日本の横文字傾向を嘆く人の気持ちも、ちょっと判る。禁じられていたものが解禁になったとたんに、飢えていたみたいに飛びついてしまう、というようなのは、やはりあまりにも変わり身が早い感じですこしカッコワリィことであるようにも思うからだ。

 などという話を知人にしていたところ、彼女は「そう、何事も行き過ぎはよくないね……」と言ったあとで、まるでひとり言のような口調で呟いた。
 「エスピーのドラフトをメールしといたんで、アサップでコレポン頼めますか……」
 一瞬の沈黙のあとで、それは何の呪文か、と問うたところ、彼女はさびしく微笑んで言った。
 「だろ。意味わかんねえだろ」
 判るか、んなもん。
 しかしおそろしいことに、金融関係に就いている彼女は、仕事先の相手の口からでたその「呪文」を、実際にその耳で聞いたのだという。というか、その「呪文」どうやら彼女に向かって「唱えられた」ものであったらしい。ちなみにこの手の「呪文」は、一部の業界の人びとのあいだではごく日常的に使われているらしい。
 「SP」とはSales and purchase agreement、売買契約書である。「ドラフト」は案文である。
 「アサップ」とはAs soon as possible、「コレポン」はcorrespondの短縮なのだと言う。つまり先ほどの呪文はこうだ。
 「売買契約書の案文をメールしといたんで、できるだけ早くお目通しください」
 唸るしかない。
 行き過ぎはよろしくない。
 「あいつらは一に金、ニに金、三、四が飛んで五に金だからどや顔で呪文ふっかけてくんの」
 「あいつらって、あんただって金融じゃねえか」
 「そういえばそうだった」
 「……あんたんとこ、外資じゃなくて○○だよね?」
 「……だからじゃないの」
 行き過ぎはよろしくない。
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