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温度

 一般に開け放たれた季節外れの競馬場の砂場に、近隣の住民たちが愛犬を放している。日が落ち、蝶が飛び去る余韻に似たこうもりが散る中、大きなモニターでどこかの会場の馬が走る映像が流れている。観客席はじっくりと勝敗の行方を見守っている。
 会場外回りを一周し、もう一周すると真っ暗になったので切り上げた。半袖ではそろそろさむいのかもしれないが、風下にたってうしろから冬の気配を感じるのが好きだ。外気にさらした皮膚から熱をどんどん奪おうとする。肩に力が自然と入るが、意識的にリラックスをする。5つある脳派のうちの1つ、アルファー波は集中力の高さのなかにあるリラックス状態から得られるものらしい。無意識にだらーんとしている状態がリラックスだと思われがちだが、そうではないらしい。


 部屋の押入れからなんともなしに段ボールをあけてみると、古い手紙が出てきた。1996から1998年あたりの手紙が多い。AIR MAILと判が押された封筒たち。この中身には、13歳やら14歳やら15歳やらの少年少女がたくさんつまっている。中身をみてみると、生活のギャップへの戸惑いや、勉強の進行具合や、将来の夢や、家族のことや、私生活の近況報告などが詰まっている。だが、それ以外のなにかが詰まっているということに、当時私は気付かなかった。そして手紙を書いている彼らも気付いていなかっただろう。

 十年ほど前から携帯は普及しはじめ、メールという高機能がついた媒体をもつことによって人と人との連絡は取りやすくなった。そして、なにかが遠くなった、とも言われている。
 子どものころ、友人と屋外で遊ぶときは、学校で集合場所と時間を決めてそれに必ず従うということは当然のことだった。遅刻やボイコットはまずありえない。現地に来なかった場合は家に連絡をするくらいである。何か事故があったのではないか、来る途中になにか事件に巻き込まれたのではないか。心配をする。日本ではない土地でなにかよろしくないことに巻き込まれでもしたら、と想像するだけで鳥肌がたってしまう。

 じゃあ携帯という媒体は優れた能力を持っているかといえば、一長一短である。まずプライバシーはない。いつでも呼び出せる、連絡がつくとなってしまうと、それをイヤがる人も出てくる。編集者や出版社から毎朝毎晩失礼な時間帯に連続でかかってくることに辟易し、即行解約したという物書きもいる。

 手紙をもう一度眺めてみる。10年の時を超えて、すこし錆び、しかし内容や人の思いはそのままに時を越えてここにある。なんともいびつな執着具合であるようで、不思議に威張らない媒体である。メールではそうはいかない。手にとって胸に抱くことはできないし、簡単に壊れてしまう。持ち運びは楽だが、いくらでも複製はできる。しかし、手紙はそうはいかない。書き手のエネルギーが手から紙に流れていくその一連の時間と行為は、色はせることなく今の私に届き続けている。

 国際電話か、手紙か、実際に海を渡るか。これ以外に手段はなかった。だからこそ一期一会というものは、子どもである私にとって、恐ろしいものであるのと同時に、大切なものでもあった。学生のころは、転校していく者たちとの別れ際に、手紙を書くからね、と必ず言いあい、そして二度と会うことはないのだろうと覚悟をしあった。

 しかし現代はどうなのだろう。携帯があらわれて、番号やアドレスさえ交換すればいつでも声が聞けるし連絡が取れるという安心感を得るかわりに、今の子どもたち、もしくは大人である私たちは、決定的な何かを失っている。人の出会いや別れはアナログの事象だが、その区別がつかない子たちがいる。携帯で繋がっているという抽象的なものに、あたかもいつでも相手の手を握ることができるのだという錯覚を抱いている。

 だから出会いや別れそのものに、そこまで意味を求めないし求めようとしない。メールが出来るのだから昔より人とのつながりは強くなったという意見もあるが、私は一概にはそうは言えないと思っている。
 もし、あの頃私たちにそんな媒体があったとしたら、手紙を書くなんてセリフは思いつくはずもなく、空港へ見送りに行ったりもしなかっただろうし、見送る相手のいない学校生活を思い描くこともなかっただろう。別れをこの身に刻みつつ、さびしさから何かを得ようとする心を、どこかに捨ててしまっていたかもしれない。

 二度と会えないかもしれない、二度と会うことはない相手から、いつか大切な人が本当の意味でこの世からいなくなってしまうような疑似体験を今の子たちは嗅ぎ取ることができるのだろうか。
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