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白日の下

 第三定住国としての受け入れがはじまった。九月かららしい。対象国はミャンマー、受け入れ人数は90名で、すでに30人余りの難民が予約されている。

 もともと先進国で難民を受け入れていないのは日本くらいなので、沽券にかかわる問題だったのだろう、「やっと」、というより、「知ってたし」の嘲笑の域を出ないのが正直な感想である。自分の尻拭いができぬまま、借金だらけの雁字搦めのなか、人との共生とはなにかを苦心の先に得た答えがこれである。「けっきょくかよ」である。
 アムネスティ・ジャパンも声高々にミャンマーへ吉報を届けている。難民を助けることができるのは、純粋にうれしいことである。問題は、そのことの弊害だ。
 難民への援助というものは、片手間やもののついでで成就するような力からなっていない。
 第三定住国制度の受け入れにたどりつくまで、たくさんの人たちの声や、たくさんの人たちの命が払われた。

 セクシャルマイノリティの件で、自国の処刑から免れるために渡日してきたアリさんのことをおもいだす。彼の民族楽器の音色のすばらしさや、彼の人徳について、彼の笑顔のあたたかさに思いを馳せる。
 あのひとは、日本にはじかれて、死んでいる。もちろん、すべての非がこの国にあるわけではない。

 救いをもとめてくる手に、飢えをしのぐための分け与えるパンがないのだと言ったその言葉には、ほんとうに裏がなかったのだろうか。

 難民受け入れはとてもナイーブな問題である。
 ひとつのテーマで受け入れを始めたら、よその国はどんどんアピールを続けていくだろう。自分の命をまもるために、ちまなこになって受け入れ先を求めるのは、ほとんど本能といっても差し支えないのではないか。
 だから受け入れる余裕のある国の人間は、かれらの気持ちがわからない。
 かれらの国が日本にもたらしてきた、またはもたらすであろう問題の揚げ足をとって、気色ばみながら自分の身をまもろうとする。
 「あやしいテレホンカードだろ」「不法入国か」「病気持ってる」「偽造でしょ」

 それらを言えたほど自分たちの国が輝いているとはおもえない。国産偽証も政界不浄も虐待も性保障も生活保護も棚の上である。
 よその国の捏造歴史を指摘するほど、わが国の歴史教科書のご都合主義は、訴えているところの潔癖さにかなっていない。ほんとうに鎖国はひらかれたのか。

 命の優先順位というのは、やはり存在する。存在してしまう。
 死刑制度はふたり以上の殺人をおかさないと基本的には適用されないとおもわれがちだが、そればかりではない。いわゆる、スパイや売国奴である。
 ほんのすこしでも国家機密をもらす、もしくはそれに準ずる行為がみなされた場合、問答無用で死刑である。日本は外部に興味がないので、この適用はほぼ皆無であるわけだが、それほどに国を守るという意識は高いのだ。

 自国を守るということと、他国の人間を守るということを天びんにはかけられない。だが、現実問題を直視せざるをえない現世において、かれらを目の当たりにして答えを出すには、時間の余裕がない。

 アリさんの聖人のような笑顔をみて、十字架を下ろした身としては、こんなことを言うのはなんだかおこがましい気がするのだけれども、本当にすばらしいものだと思った。
 日本における仏だとか、西洋におけるキリストだとか、中東におけるアッラーだとか、そういう人々があがめようとする気持ちを、一瞬取り戻したような気がした。

 一度も不平不満を述べることなく、自分の身だけではなく、いろんな人たちが命の危険にさらされているということを最高裁で訴えた彼の声は、批難の色がいっさい感じられず 透き通っていた。証言台に立っているアリさんはもはや、世俗に漬かされた人間とは到底おもえず、もしかしたら、敗訴はもうわかっていて自分が死ぬことを知っているのではないかとさえおもえた。

 空港のチェックインで、裁判に敗訴したアリさんを見送るということは、もはや処刑場に見送るもおなじだった。首尾よくいくとはおもわなかったが、彼が日本を愛してくれたことを、私は感激したし、誇りにもおもった。でも、それはあくまでも、割れぬ絶望の風船のなかにある。
 異国の人間をこの日本からしめだせという声を耳にすることがある。血膿のしたたるおもいで前を向いて生きてきた人たちのことを、自分のことばで話せない人たちには理解できやしない。

 身に覚えのない、こころあたりのない、慣れないものを目の当たりにするというのは、とても怖いことだ。
 それが本筋であるなら、怯えながら生きていくことを選べたら、とおもう。

 いつかこの国の定住制度拡大の見通しが出るとき、私はアリさんの横顔を思い出すにちがいない。
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