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memo

 ・これでワリカンだったら承知しねえからな、という目つきで男共を睨んでいると、彼らは調子良く自己紹介を始め、私たちも渋々名前と職業だけをポツリポツリと紹介した。一応、私もOLという事にしておいた。まあ、このレベルの低さじゃ、キャバ嬢だといって引かせても良かったかもしれないけど。別に顔の悪さだけだったら、大した問題じゃない。毎日の客で慣れてる。だけど、この話のだるさは一体どうした事か。センスのないネクタイといい、センスのない話といい、センスのない下ネタといい、お前らは一体誰にセンス泥棒されたんだよ、って感じ。あ、生まれつきだったらごめんなさい。みたいな。隣に座った男の息が臭かったから、乾杯の後すぐに席を立って、並んで座っているナツコの同僚二人の間に割り込んだ。
 「くそ、あいつは家畜かよ」―家畜―

 ・メス豚と言われようが、ヤリマンだと言われようが、メス犬だと言われようが、ファッキンと言われようが、中指をたてられようが、私はそれに心を動かされることはなかった。死んじまえと言われ、馬乗りで殴られた時ですら、私はひとつも抵抗しなかった。それなのに今日の私の乱れようといったら、まるでテロに遭ったアメリカ人のようではないか。ヒステリックな人間が、私は大嫌いだ。~~~ナナさんはヨロヨロと立ち上がり、ペン立てに入っていたハサミを持って、私に掴みかかった。~~~映画のようだ~~~ブチブチ、という音が聞こえた気がした。ブチブチって、刺されちゃったよ。結婚した次の日に、刺されちゃったよ。結婚記念日がババアに刺された記念日の一日前だなんて、ちょっと面白すぎだよ。もう一度、ブス、と刺された。ブスはお前だ。そう呟いたけど、ちゃんと声になっていたかどうかわからない。あんたなんかに殺されてたまるか。私は村野さんに殺されるために生まれてきたんだ。あんたみたいなクソマンコに殺される筋合いは、これっぽっちもない。~~~~ああ、すまなかったね。悪かったよ。私は彼に殺されないとならないの。あんたに命をくれてやるのが嫌なんじゃない。彼以外の人に殺されるのが嫌なんだ。

 ・入院、した方がいいねえ。と、ヤブ医者は言ったけど、マネが事を荒立てたくないらしく、大きな病院への転院を渋った。仕方なく、私は太股を刺した時に行った中堅病院の個室に入院した。あの時と同じ医者は、私の傷を見るとうんざりだ、とでも言いたげな顔をした。「また、自分でやったの?」「今回は、事件です」「事故、ではなくて?」「事件です」「ものは相談なんですけどね、縫合していいですか?」「ゴタゴタ言ってねーで早く縫えよバカ野郎」「あ、いいの?」「私は布だし、お前はミシンだろうが」―お前はミシンだろうが―

 ・彼はいくつかの相反する特質をきわめて極端なかたちであわせ持った男だった。彼は時として僕でさえ感動してしまいそうなくらい優しく、それと同時におそろしく底意地がわるかった。びっくりするほど高貴な精神を持ち合わせていると同時に、どうしようもない俗物だった。人々を率いて楽天的にどんどん前に進んで行きながら、その心は孤独に陰鬱な泥沼の底でのたうっていた。僕はそういう彼の中の背反性を最初からはっきりと感じ取っていたし、他の人々にどうしてそういう彼の面が見えないのかさっぱり理解できなかった。この男はこの男なりの地獄を抱えて生きているのだ。―背反性―

 ・家の中はうすぼんやりと暗かった。土間から上がったところは簡単な応接室のようになっていて、ソファー・セットが置いてあった。それほど広くはない部屋で、窓からは一昔前のポーランド映画みたいな薄暗い光がさしこんでいた。左手には倉庫のような物置のようなスペースがあり、便所のドアも見えた。右手の急な階段を用心深く上っていくと二階に出た。二階は一階に比べると格段に明るかったので僕は少なからずホッとした。―ポーランド映画―

 ・東京について寮に入り新しい生活を始めたとき、僕のやるべきことはひとつしかなかった。あらゆる物事を深刻に考えすぎないようにすること、あらゆる物事と自分のあいだにしかるべき距離を置くこと、それだけだった。~~~はじめのうちはそれでうまく行きそうに見えた。しかしどれだけ忘れてしまおうとしても、僕の中には何かぼんやりとした空気のかたまりのようなものが残った。そして時が経つにつれてそのかたまりははっきりとした単純な形をとりはじめた。僕はそのかたちを言葉に置き換えることができる。それはこういうことだった。死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。言葉にしてしまうと平凡だが、そのときの僕はそれを言葉としてではなく、ひとつの空気のかたまりとして身の内に感じたのだ。~~~そしてわれわれはそれをまるで細かいちりみたいに肺の中に吸い込みながら生きているのだ。

 ・しかし彼の死んだ夜を境にして、僕にはもうそんな風に単純に死を(そして生を)捉えることはできなくなってしまった。死は生の対極存在なんかではない。~~~あの十七歳の五月の夜に彼を捉えた死は、そのとき同時に僕を捕らえてもいたからだ。僕はそんな空気のかたまりを身の内に感じながら十八歳の春を送っていた。でもそれと同時に深刻になるまいとも努力していた。深刻になることは必ずしも真実に近づくことと同義ではないと僕はうすうす感じ取っていたからだ。~~~限りのない堂々巡りをつづけていた。それは今にして思えばたしかに奇妙な日々だった。生の真っ只中で、何もかもが死を中心にして回転していたのだ。―回転―

 ・「馬鹿な看護婦がいてね、そうやって綱の上を歩いてる哀れな父子三人を呼び止めて言うのよ。『お母様がどんなご病気か知ってらっしゃるんでしょう。だったらもっと来てあげて下さい』って。新米看護婦が目を血走らせて、初めて泥棒捕まえたポリ公みたいに、情や正義感を全身にみなぎらせて、私たちを睨みつけるのよ。病院へ来ないで父が若い子といちゃついてるっていうの? 私がB・Fはべらせてクラブのお立ち台でノッてると思うわけ? でもその時は誰も口を開く元気さえなくて、三人で顔を見合わせて苦笑したの。まるで『死んでいく人間なんてどうでもいいんですよ』って言うみたいに」

 ・「ミニスカートの制服きてメニュウ持って笑顔振りまいて習ったとおりの台詞言って、二番が二人連れで十一番が五人子ども含むなんてやって一時間八百円。何にも意味がないの。一時間で八百円稼いでも母は瞼さえ開かないし、時折開いたって私の顔なんてわかりゃしないんだから。でもね動かない母よりもっと怖かったのはお金よ。それまでわりと普通の家庭で、私も妹も物質的には案外恵まれてきたほうなの。それがいきなり何もなくなっちゃうのよ。上履きに穴が開きました、お金頂戴って言えないのよ。でも特別必要なものなんか何ひとつなかったけど、気が狂うほどお金が使いたかった。何の価値もない偽者のアクセサリーや、骨董品やずらりと並んだ食器や、読めもしない哲学の本、きれいな色の帯留からラッピングペーパーからいい香りのポプリ~~

 ・「何から何まで眺めて一つ一つを手にとって値段を確かめるの。ありとあらゆる値段をあんまり見すぎて、小さな紙に書き込まれている金額がもうただの数字にしか見えないの。八万五千九百円のワンピースなら八、五、九。私はその数字を見て心の中で、一生懸命お金の価値を思い出そうとするのよ。このワンピースは私が何百時間働かないと手に入らないんだなってね。~~~そうして歩いていくうちだんだん、自分の中で物欲が形づいていくのが分かる。何に対しての物欲か、それはまるで分からなかった。はっきりとこれがどうしてもほしいっていう品物はないの。ただ、何かがどうしてもほしいって気持ちがむくむくと現れてきて、次第に渦巻きながら心の中で大きな石になるの。その石が始末できなくて、献金袋を盗んでみたのよ。毎日の礼拝で献金袋集めるの。集める係りが出席番号順に回ってきて、私自分の番号が来る日をどきどきしながら待ったわ。賛美歌歌いながら献金袋集めて、その後すぐ感謝の祈りでしょ。その時みんな目をつぶるから、こっそり袋を摩り替えたの。その日、いくらでもないんだけどさ、そのお金を持ってデパートを一階から順に見て回ったの。でも何一つ買いたくなかった。ただ焦りにも似た物欲がころころ胸の中で転がってるだけ。―物欲―

 ・みんな疲れすぎたのよ、きっと。そうやって皆が疲れて変になっていくのに比例して、母はどんどん壊れていったの。濡れた傘みたいに痩せたと思ったら薬の副作用で今度はぶくぶくに膨れ上がっちゃって、何か伝えるために文字盤が用意されてるんだけど、もう腕が持ち上がらないの。そのうち鼻にも口にも妙な管突っ込まれて、点滴の数もどんどん増えた。それでね、最後は両手をベッドの足に縛りつけ始めたのよ。喉に突っ込んだ管が苦しいから、病人が無意識にむしり取っちゃうんですって。むしり取ったら死んじゃうから、白い布切れで手を縛り付けるの。母の膨れ上がった手に、赤い輪が何重にもできてた。病院を出た後、駐車場へ向かう坂の途中で立ち止まって、時々父が振り返るの。ぼうっと聳える高い建物の明かりはすべて消えて、ぽつぽつと青い光がにじんでる。その淡い光に向かって、父は手を振るのね。お父さんだれに手振ってるのって、喉まででかかって聞けなかった。振り返ることも出来なかった。青い光に包まれて、ぶくぶくに膨れ上がった母が立っているような気がして。

 ・「夜中の病室は嘘のように美しかった。~~~天国のクリスマスみたいだねって、妹と言い合ったくらい~~~簡単なことなの、縛り上げられた両手の布切れの解いてあげればいいの。そうすれば彼女は自分で無意識のうちに鼻と口に差し込まれたチューブを~~~私と妹は月の光を吸い込んだ白い布に手を掛けたその瞬間、母は笑ったのよ。私と妹は凍り付いて手を止めた。違う。違うわ。そうしようとしたのは父なの。本当に母を愛していたから、美しく動き回っていた母を愛していたから、冗談みたいに膨れ上がった顔や全身や両腕~~~母に近づいて、さよならって手を握ったの~~~母は握った手を離さなかったの、朝までね。父はだから死なせてあげることができなかったの~~~いいえ、それは嘘。彼女を死なせてあげようとしたのは、そのときも私だった。私は二回も、あの人を殺そうとした。海の底に沈んだような青い廊下を、私は何回もうろつき回ったの」
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